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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>純粋に黒く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――此処が」

 “其れ”は言葉を発した。
 口はない。目もない。無貌であるが、声を発した。其の言葉は期待と歓喜に満ち溢れていた。
 ――其処はいわば村のような見目をしていた。寂れた家、枯れた噴水……まるで生気のない村だった。誰かが住んでいたのか、其れとも誰かが住んでいたように『見せかけている』のか。
 誰も判らない。だって此処は終焉の地。ラスト・ラストと呼ばれる、未踏の地なのだから。

「Soう、ここGa」
「……ワタシは……感動、しているのだろうか。不思議な気持ちだ……」
「KoわいのではNaくて?」

 奇妙なイントネーションで尋ねるのは、黒い影のような人間の形をしたものだった。
 男女の性差すら判らぬ。水色の髪が、ゆら、と枯れた風に揺れる。其の身体から何か骨の蛇のようなものが“するり”と現れて……少しばかり宙を泳いだ後、其れの影に還っていく。
 怖くないのか、という其れ――「ラトゥ・ラ・トゥーラ・トゥ」の問いに、無貌のケンタウロスは頭を振った。明確な否定であった。

「恐怖ではない。これは恐怖ではない、……いうなれば、まるで郷愁のようなものかもしれない。ワタシは故郷を知らないから、其の言葉が適当かは判らないが」
「Haha! 誰も故郷Naんて知らNaいサ。ワタシたちNoようなモノはネ」
「ああ。――ああ」

 感嘆の声を上げる、透き通った彫刻のような異形。
 其の隣で笑う、黒く濁ったような異形。
 彫刻のような異形は、まるで母の腕に抱かれているようだと思いながら言った。

「ワタシは、死ぬならこのようなところで死にたい」



「――3度目の正直……はなかったみたいだね」

 奇矯な来訪者の気配はない。
 いつもより騒がしい、きっと過去で一番騒がしいローレットで、グレモリー・グレモリー(p3n000074)は静かに言った。声量は小さいが通る声なので、聞き返す必要はなさそうだ。

「皆も知っての通り、空中神殿から一報があった。“其の時”が来るそうだ。Case-D……神託が姿をあらわす。場所は影の領域。敵陣のど真ん中……何をするにしても、敵が波のように押し寄せて妨害してくるだろうね。でも、悪い事ばかりじゃない」

 グレモリーは混沌地図を取り出すと、きゅ、きゅ、と赤いマーカーで幾つかマルを付ける。
 これは今生きている『ワーム・ホール』の位置だという。

「このワーム・ホールを通って、逆に相手の領域に入り込むんだ。中にはきっと滅びのアークが満ちていて、君たちは息をするのも辛いかもしれない。でも、これはまたとないチャンスだよ。通路はざんげが確保してくれる。通った先にいる魔種を、兎に角撃破するんだ。今回の任務は、本隊が首魁たちを撃破するために魔種の数を減らす事だ。――……これまで何度か顔を合わせてきた、無貌のケンタウロス。彼も恐らくこの領域にいるだろう。奇妙な縁も此処でおしまいにしよう」

 僕に出来るのはここまで。
 そうグレモリーはいう。彼は戦えない、ただの情報屋だ。此処でイレギュラーズが死地に向かうのを、見送る事しか出来ない。
 あとは君たちの仕事だ。一番安全に通れるのは幻想のワーム・ホールであろう。其処を通り、終焉へ至り、魔種を撃破するのだ。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 いよいよ最終決戦です。全てを決する時が来ました。

●目標
 無貌のケンタウロスと「ラトゥ・ラ・トゥーラ・トゥ」を撃破せよ


●立地
 ラスト・ラスト内、闇の領域です。
(ワーム・ホールを無事に通過できた、という前提から開始です)
 古びて寂れた村のような景観をしています。
 エネミー2体の他には人影も、人でないものの影もありません。
 非常に戦いやすい環境です。


●エネミー
 無貌のケンタウロスx1
 「ラトゥ・ラ・トゥーラ・トゥ」x1
(ワールドイーターx??)

 【怒り無効】
 この2体はおよそ感情というものを持ちえないため、怒りによるダメージコントロールが出来ません。
 ただし、隊列などである程度の制御が可能です。

 ラトゥ・ラ・トゥーラ・トゥは其の身体が「ワールドイーターで構成されています」。
 コアを砕かない限り、ほぼ無限にワールドイーターを召喚します。
 この召喚されたワールドイーターには怒りが有効かもしれません。


●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。


●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。



 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • <終焉のクロニクル>純粋に黒く完了
  • 其れはついに、辿り着いた。
  • GM名奇古譚
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月06日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ

リプレイ


「終焉にも村落があるのか」

 其の風景を見て、『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は思わず呟いた。魔種が暮らしていたのだろうか。まるで純種のように?

「こんな場所にも誰か住んでいたのかしら」

 『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はしかし、村落を見回してなどいない。目の前にいる『ワールドイーターの集合体』と、其の隣にいる透き通ったケンタウロスへと視線は注がれていた。

「Saあネ。ワタシたちNiもそれはWaからない」

 ラトゥ・ラ・トゥーラ・トゥ――ワールドイーターを周囲に従える黒い影のようなものが囁いた。まるで鉄がこすれ合うかのような、聞き取りづらい声だった。

「ワタシたちも此処を訪れるのは初めてだからな。アナタたちもそうだろう」
「そうだな。――前回はさぞ愉悦に浸っていたようだけど」

 『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)が無貌のケンタウロスへと視線を向ける。

「今度はそんな余裕は与えない。お前が成長したのは――或いは生まれたのも、俺の責任だ。責任は果たさなきゃならない。俺達の望む運命を手繰り寄せる為にも、お前達は此処で殺す」
「Soうでなくテハ!」

 ラトゥがぱちぱちと両手を打って、雲雀の殺意に敬意を表した。或いは面白いと思ったのかもしれないが、其の仔細が確認できない表面から、うぞうぞと宙をはい回る骨のようなワールドイーターたちが現れる。

「あれは私が抑えるよ。皆は他のターゲットに集中して」

 『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が呼ぶのは風。そして光の花弁がふわりと彼女の周囲を舞い、加護を与える。

「俺達はな、単にお前をぶくぶくと肥え太らせるために付き合ってる訳じゃねぇんだ」

 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)がフィールド内に危険物がないのを確認し、構える。雨の気配を纏う。終焉にはないだろう、清浄な雨の気配を。

「どうせこれが『最後』にしかならないのなら、きっちりしっかり教えてやるよ」
「何をかな」
「お前の『最後』って奴だ」

 雲雀が動き出す。『君よ強くあれ』安藤 優(p3p011313)に目配せをして、並んだ魔種二人に堕天の輝きを落とした。

「いTaい! いTaいネエ! 最高ダ!」
「ではこちらはどうですか?」

 ずろり、とラトゥと無貌のケンタウロスの足元から粘質が生まれる。其れはコールタールのような黒色をして、二人の脚を終焉そのものへと引き摺り込もうとするかのよう。

「其処の顔のない方……ですっけ?」

 優が無貌のケンタウロスに視線を向ける。

「ぼく、ギフトであなたの言葉を一字一句把握してましてね」
「ほう」
「“其の銃ではワタシを傷付けられない”――そう言いましたよね? でも、あなたはラダさんに銃で殴られて傷付いていた。とんだ笑い話ではないですか」
「……」
「怒りを知らない? 本当にそうですか? 例えば僕らが魔種の首魁を倒してしまったりなどしたら、あなたは怒り狂ったりするのではありませんか?」
「――其れはわからない。我々は明確な従属意識を持っている訳ではないからな」

 苛ついているのかは判らないけれども、少なくともケンタウロスの意識は優に向いている。そうでなくては困るのだ、と優は心中でほくそ笑んだ。感情を押し殺しているのか、其れともまだ“苛立ち”は芽生えていないのか、感じ取ることは出来ないが――

 『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がうねる雷の蛇でしたたかに無貌のケンタウロスを打つ。
 畳み掛けるように『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が距離を詰めた。

「俺達も、キミたちも、もう後には引けない。前に進まないと護れないものもある!」

 其の青くすら見える剣を十字に奔らせる。
 無貌のケンタウロスの胸元に傷が走り、ぴしり、と音が鳴った。

「ほら、もう傷がついたではないですか」

 優が畳み掛けるように煽る言葉を投げる。そうして視る。矢張りまだ、苛立ちは感じ取れない。
 だが、何か思うところはあったのだろう。無貌のケンタウロスは腕を長銃に変えて構えた。

「少しうるさいものがいるようだ」

 優を狙い撃つつもりだ。
 硝子の銃弾が放たれた瞬間、其れを妨げたのはカイトだった。ケンタウロスを狙って撃ったのは、以前模倣された黒きさかしまの雨。
 これならば最早模倣する事もあるまいと切ったカードだ。

「ぬう……!」

 狙いがブレる。其れでも銃弾は宙を切り、優の頬を僅かに掠めた。

「大丈夫です!」

 誰かに問われる前に、優は先んじて報告をする。そう、煽ってはいても侮っている訳ではない。此処は魔種の本拠地であり、敵首魁の居城であり、そして自分達は招かれざる客であり、今はそんな場所で戦闘をしているのだ。
 このうら寂しげに思える村の大気が突然牙を剥くかもしれない。そんな緊張感がイレギュラーズの胸の内にはあった。
 優は言いながらも無貌のケンタウロスの感情を観察していたが、苛立ちらしきものは見当たらない。あるのは――“興味”だった。

「(恐らく、学ぶことに貪欲なんでしょうね)」

 何故優がそのような言葉をかけるのか。何故己を煽って来るのか、其の真意を探ろうとしている。
 だが、其れを親切に教えてやる必要など何処にもない。なので優はさっさと戦法を切り替えて、アレクシアが引き受けているワールドイーターの苗床――ラトゥのコアを探る事にした。

「友人、故郷、望み――」

 ラダが銃を構える。
 例え模倣されたとしても、ラダはこの銃を手放すつもりはない。戦うという事は、そういう事だ。

「其れも誰かの真似なのか? 其れともお前自身のものなのか。何から何まで真似ではつまらない、後者でいいのだろうよ」
「――そうだな。これはきっと、ワタシ自身の郷愁だ」
「そうか。なら良いんだ。空っぽではなく、欲望を抱えた相手の方が私も戦い甲斐があるからな」

 ラダが笑って、無貌のケンタウロスへと銃弾を撃ち込んだ。
 だが以前「傷付けられない」と豪語したのは嘘ではなかったのだろう。ばちん、と音がして、ケンタウロスの片腕が銃弾を弾き飛ばしていた。

「……。成る程? 弾の速度まで理解しているという訳か」
「恐らくそうだろう」

 最後の戦であってもなお、己の力の全貌を理解できていない。そんな相手に己の武器を模倣されたなどと業腹ではあるが――ならば、とラダは新たに銃弾を込めた。弾くという一動作の間に、他の誰かが攻撃を入れられる。そう、今なら例えば、

「どっ、せえーーい!!!」

 ヴァレーリヤとか。
 焔を纏ったメイスが、乾ききった終焉の大気に熱を灯す。曰く、“主の御手は我が前にあり。煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる”。
 ケンタウロスは其れを銃に変化させた腕で受ける。ばぎり、と硝子がへしゃげるような嫌な音がして、銃身に当たる部分が僅かに曲がった。

「……!」
「其の身体、そう堅くはないと見ました! そう簡単に何でも防げると思わないで下さいまし! 模倣するのなら、ラダの立ち回り方も含めて模倣するべきでしたわね!」

 基本的にラダを模倣しているのであれば、防御と接近戦を苦手としているはず。実際、至近にいるヴェルグリーズとヴァレーリヤの一撃を無貌のケンタウロスは防げないでいた。

「真似する事は決して悪い事じゃない。何事も誰かを見習うことから始まるからね。だけどキミの其れは違う、其れが一体“何であるか”を学んでいない上辺だけのものだ。そんなものに、俺達は負けられない」
「……!!」

 此処で無貌のケンタウロスはカードを切った。“切ってしまった”。
 呼び出そうとしたのは先程優が召喚した黒い粘質。アレクシア以外の全員が己を狙っている中で、レインとカイトを狙ったのだ。

 其れを、雲雀は見逃さなかった。

「――模倣した!!」

 これまで搦手を主体に動いていた雲雀だったが、其処で初めて攻勢に出る。掌からぽつりと生まれ出た無数の黒い弾丸が、次々と無貌のケンタウロスの胸元に突き刺さった。

「何?」

 無貌のケンタウロスは気付かなかった。気付けなかった。彼はだって、戦術というものを学ばなかった。ずっと一人で歩いてきた彼には、そんなものは必要がなかったから。
 だから、イレギュラーズが“模倣できる技は一度に一つのみ”である事に気付いており、“敢えて模倣されても良い技で挑み、模倣させた後に畳み掛ける”という戦術を立てていた事に、気付けないでいたのだ。

「何が起こったか判らないか? 判らないなら、判らないまま死んでいけ。――ただ」
「……ただ?」
「最期に覚えて貰わなきゃならねぇ事がある」

 合間にレインが悪夢のような一撃を無貌のケンタウロスに見舞う。其れはこれまでとは比にならない一撃だった。
 カイトは言葉を一度切り、雨を呼ぶ。其れを無貌のケンタウロスは知っていた。知っていたが、知らなかった。この心の底から湧き上がる感情は何だ? 見たくない、見せないでくれと願うこの感情は?

「『消えたくない』」

 消えたくない。

「『死にたくない』」

 死にたくない。

「人が今際の際に抱くであろう感情の一欠片だ」

 ――【恐怖】だよ。

 カイトが黒い雨を降らせる。其れは獣の咢のように無貌のケンタウロスを呑み込み――悲鳴は雨音の中に消え、恐怖という感情を刻み込みながら、無貌のケンタウロスはある種“望み通り”に此処で其の命の火を消した。



 もう何度目か。
 無貌のケンタウロスは仲間に任せ、ラダはワールドイーターの群れに向けて引鉄を引く。砂嵐のように弾丸が周囲を制圧し、ワールドイーターを消し去るけれども――直ぐにまた、別のワールドイーターが其の空間を埋め尽くす。

「アレクシア、大丈夫か?」
「うん、ラダのおかげで。思ったよりも酷い数でびっくりしたけど」

 当初の予定では、アレクシアが一人でワールドイーターを抑える筈だった。
 しかし数が余りにも多かった。ラトゥという一つの存在に埋まっていたとは思えない数のワールドイーターを見て、ラダが加勢していたのだが――

「Soうカ。逝ったKa」

 何か繋がるものがあったのだろう。或いは気配で察したのか。ラトゥは先程まで隣にいた硝子の獣が無に還ったのを察する。しかし、悼む事も笑う事もしなかった。
 ただ淡々と。其れだけ。

「どうせ逝くNaら、一人くらい連れて行ってMoらいたかったガナ! 仕方Naい、ワタシが其の役目を担うとSiよう!」

 ラトゥの姿が見えなくなる。
 まるで壁か嵐のように渦を巻くワールドイーターたち。其れを見て「うわ」と気持ち悪そうに雲雀が声を上げた。

「酷い光景ですわね。でも、開けない道ではありません。私が道を開きます」
「僕も、……手伝う……他のみんなは、其処を、通って……」

 二人はいうや否や、ヴァレーリヤはメイスに炎を灯し、レインもまた、傘に魔力を溜める。
 悠長に話し合っている暇はない。ラトゥは恐らく、此処で相打ちになってでもイレギュラーズを連れて行こうとしている。
 そんな事はさせない。
 倒れても良い、膝を突いても良い、ただ、皆で帰るのだと全員が頷く。

「レイン、行きますわよ」
「……うん」
「“主よ、天の王よ”――」

 ――この炎をもて彼らの罪を許し、其の魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え。

 さて、ワールドイーターという「生まれた事自体が罪である」存在が果たして主に許されるのかは兎も角。
 ヴァレーリヤのメイスから吹きあがった炎が、濁流の如くワールドイーターの渦へと叩き込まれる。彼等一体一体の体力は然程でもないのだろう、音すら上げずに群れが炭になり、渦に穴をあけた。
 其処にレインが畳み掛ける。無数の魔力弾を撃ち込み、その穴をさらに広げて――

「……足りませんわー!! ラダ!」
「私か! 構わないが!」

 突然話を振られたラダだったが、当然銃は構えている。ただ、標的が少し変わっただけの話だ。
 最早模倣を鬱陶しく思う事もない。あるがままに、いつものように――照準を定め、放つだけ。

 ラダの放った弾丸が嵐を呼ぶ。其の嵐は更に多くのワールドイーターを巻き込んで、――およそ人型を崩しつつあるラトゥの姿が視認できた瞬間、ヴェルグリーズたちは駆け出していた。
 其れを追おうとしたワールドイーターたちの眼前を、赤い花びらがふわりと舞う。

「大丈夫! 私が引き付ける!」

 アレクシアだった。
 傷付いて、癒して、其れでも傷付いている身体をおして、ワールドイーターを引き付ける。
 だって其れが、アレクシアの役割だから。

「二人とも、アレクシアの援護に回れるか?」
「勿論ですわ! 本体はあとの方に任せましょう。レイン、いけますわね?」
「うん……叩いて、燃やすね……」


「Koこまできたカ!」

 ラトゥの頭部らしき靄が言葉を発する。
 最早ヒトの形をしていなかった。其れはワールドイーターの形をした靄が作り出す影のようなものだった。
 其の身体の全てを、或いは全て以上をワールドイーターでみっちりと満たしていたのだろう。だが、コアらしきものはまだ見当たらない。

 ――ああいうものには核があるのが定番だ。

 そう言ったのは誰だったろう。優は前髪で隠した瞳で其れを探す。
 ――靄が濃い部分がある。

「来てやったよ、嬉しいだろ?」

 雲雀が魔力弾を放つ。靄に穴が穿たれて、靄なのに痛むのか僅かに身を捩る。優は見ている。矢張り、靄が濃い部分がある。点在している。其の何処かに、コアがあるはず……

「もう終わりにしよう。俺達も、きっとキミも、後には引けない」
「HaHaHa! ならぶつかRiあっテ、壊Reた方が負Keダネ!」

 神性を帯びた剣、其れを振るうヴェルグリーズの技が極点へと至る。
 蒼くすら見える残像を残し、小柄な靄を全て斬り尽くすつもりで斬った。

 ――まだだ。靄はあつまり、うっすらとヒトのような形を保つ。

「アンタにもないんだな、恐怖ってやつが」

 ならば、とカイトは星の雨を降らす。其れは光の五月雨である。或いは敵にとって、死出の舞台を彩る演出でもある。美しくちらちら舞う雨粒は、其の一粒一粒が浄化の力を持っている。であるが故に、雨粒に濡れて、泥にまみれた石が美しくなるように、靄が少しずつ削れて行って――

「――! 見えた……! 右の脇腹です!!」

 そうして漸く、優は真実に辿り着く。コアと一口にいっても様々ある。例えば石。例えば宝石。例えば印。だけれどもラトゥの場合は、其のコアは“靄”であった。靄から靄が生まれ、其の靄からワールドイーターが生まれる。
 ラトゥは其の言葉で看破された事に気付いたのだろう。靄からワールドイーターを生み出してけしかける。

「まだ生み出せンのか……! 本当に無限湧きみたいな奴だな。叩き込むぞ!」

 カイトの言葉に、三人ともが頷く――事もせず、すぐさまに構えを取った。
 最早この“現象”とも呼べる存在を前にして、言葉は必要なかった。

 カイトがもう一度浄化の雨を降らせる。美しく降り注ぐ光の雨の中、ヴェルグリーズが最大火力を叩き込んだ。技よ極点に至れ。剣よ奔れと周囲の靄を剣風で吹き飛ばす。
 其処に雲雀が三撃目を叩き込む。敢えて点ではなく、面を狙った。堕天の美しくも邪悪な輝きは生み出されたワールドイーター諸共に靄を打ち払い――靄の塊だけが其処に残される。

「これで、」

 ――ずっと。
 こんな自分が役に立てるのかと、いつだって自問してきた。神殿に召喚されて、怖ろしくて逃げ出した。図書館に引きこもって、英雄譚を読み漁り続けた。
 そんな自分に何が出来るだろうと、今日だって相手を煽る言葉を投げかけ、そして見極め続けた。

 だけど今なら。
 今なら、何かが出来るような気がするんです。
 皆に託された。以前ならきっと怖くて逃げ出したかもしれないけど、今なら何か……出来る気がするんです!

「終わりだ!!!」

 優が放った一撃には、彼がこれまで歩いてきた其の道程の分だけの感情が篭っている。
 其れを放つための勇気なんて、本当は一握りだけで良い。優はだから、其の一握りを握り締めて、放った。
 赤い鷹が舞う。靄の塊を余さず消し飛ばし、そうして――終焉の、太陽も月も雲も見えぬのっぺりとした空を、舞った。



 ――いつだって道程は険しかった。
 失った物も、喪った者も、取りこぼしたものも沢山あった。
 だけれど、いつかはあの燃え盛る鳥のように、自由を手に出来ると信じているから……だからずっと、戦い続けて来れた。
 取りこぼして、すり抜けて、其れでも掌にほんの少しだけ残った温もりを、人はきっと、平和と呼ぶのだろう。
 ああ、世界が決するまであともう少し。誰の掌に、一粒の勝利が残るのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ラダ・ジグリ(p3p000271)[重傷]
灼けつく太陽
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
大樹の精霊
ヴェルグリーズ(p3p008566)[重傷]
約束の瓊剣

あとがき

お疲れ様でした。
何かを語る事は最早きっと無粋でしょう。
ご参加ありがとうございました!

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